『舞台』(西 加奈子)

舞台

西 加奈子 / 講談社




この小説はニューヨークのガイドブック的な役割も果たし

葉太という主人公の”独り善がり”な「ひとり舞台」の話である。


それと同時に、作中に登場する小説『舞台』(小紋扇子)との関わり方が

sensitiveに描かれていてとても心憎い演出になっている。



29歳の葉太は、父親の遺産をつかってニューヨークへと旅に出る。

父親が残した『地球の歩き方 ニューヨーク』と

ずっと読みたいと思っていた小説『舞台』を持って。


『舞台』の作者の”小紋扇子”はひきこもりの作家で、数年に一度しか執筆しない。

実名も公表せず、顔も出さず、私小説を描く

引きこもりの作者の気持ちが葉太には痛いほどよくわかるのだ。

だから、その楽しみにしていた小説をセントラルパークのシープ・メドウで

どうしても読みたいと思って持って行ったのだった。


葉太は調子に乗ってはしゃぐ自分に対して、必要以上に警戒している。

「人間失格」を読んで、そこに登場する大庭葉蔵と自分は似ていると思っていた。

葉蔵は他者を恐れて生きていながら、それを完璧に隠し通せる”演技力”を持っており

葉太もイケメンで家が裕福であったという共通点もあって

「人間失格」に出てくる”竹一”的な存在に対しては、特に注意を惰らなかった。


ところが、その慎重な葉太がセントラルパークのシープ・メドウにたどり着いて

つい油断してしまったのだ。


「まさか」と思うような事態に直面して、葉太はへらへらと笑ってしまう。

”シープ・メドウすぎる”場所ではしゃぎ、浮かれ、我を忘れた馬鹿な自分が

情けなく恥ずかしく悲しいと思う。

それを隠すためにへらへらしている葉太。

『舞台』を読むために来た場所なのに、葉太にはもう本の内容が頭に入ってこない。

必要以上にヒトの目を気にしてしまう葉太。



葉太が6歳だった頃、彼は祖父の葬式で初めて亡霊を見た。

それは初めて葉太が意識をせず演じた”舞台”の後だった。


亡霊はニューヨークに行っても至る所に現れる。

ホテルの自分の部屋で、、、

2001年の同時多発テロのあったground zeroでも。


亡霊たちは葉太に何かを伝えたかったのだろうか?


死んだ小説家の父をしゃらくさくあざといと感じて嫌ってきた葉太。


葉太が自分を守るために演じてきた役は何だったのだろう?



そして、私達も知らず知らずのうちに何かを演じながら、

傷ついたり傷つけたりしているのだと思い知る。


葉太は”小紋扇子”の『舞台』を無事読むことができただろうか。


そしたら、そっと私に感想を聞かせて欲しい…。 



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by ai-3sun | 2016-03-18 23:14 | books